彼がうんだもの
雨ばかりの毎日もあっという間に終わってしまい、また晴れ晴れとした日々がやってきた。


ぴかぴかの太陽と、澄んだ空気が気持ちいい。次第にわたしは彼の事を忘れていく、けれどわたしの靴は時々小さな鳴き声を立てて、わたしに何かを伝えたそうだった。乾いた声は今にも消えそうな、そんな気がした。


こすれあう音は次第にか細くなり、いつの日かわたしはその音をもう、全くといっていいほど耳にしなくなった。


きっと彼が発見した生き物だから、彼の存在なしには上手く生きていけないのだろう。


何もかもは移り変わっていくのだし、全てのものは失われる方向にしか進めない。


けれど、そんな中でも大切な言葉は忘れないようにしたい。日常をささやかに色づけるような言葉。ほんの些細な一言だったのに、わたしはずいぶんその事を考える事でつらさから離れる事が出来たのだ。


ただの靴音の中に、彼はいろいろな何かを見出し、うんだ。もう少し長い間そばにいる事が出来たのならわたしはもっともっとたくさんの何かを彼から受け取る事が出来たかもしれない。そしてそれはいつだってわたしを勇気づけて、前に進む行動力の源になったと思う。


晴れきって乾いたような日々でも、夕方突然に雨が降った。窓から外を眺めると何だかそこを誰かが走り回っているような気がする。


ささやかな事だけれど、わたしの大切な思い出と感情を思い出させてくれてありがとう。


ささやかな声を、席を立って歩き出す時に、最後の一言のようなものをわたしは聞いた気がした。


前に聞いた事と同じ事を。


「今までありがとう、さようなら」と。





 おわり

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