【完】溺れるほどに愛してあげる
「カップルさんですか〜?
カチューシャめっちゃお似合いです!」
チュロスを売ってるクルーのお姉さんが話しかけてくれて、無視することもできず立ち止まる。
こんなの…初めての経験であたしは口ごもってしまって。
それでもそんなあたしの隣で金田は嬉しそうに
「そうなんです」
ってあたしの肩を抱きながら言った。
ね?って顔を覗かれて、コクリと頷くことしかできなかった。
だって、近い!近いんだもん!
目の前のクルーさんはニマニマと笑っているし…恥ずかしいのなんのって…
「食べようよ」
恥ずかしい…それだけで頭がいっぱいで、金田の言葉にすぐに反応できなかった。
「え?」
頭が働くようになったのは、あたしの手が引っ張られたから。
ただの反射的に。
「俺チョコ」
相変わらずの乙女舌。
あたしは定番のシナモンを頼む。
「どうぞ〜」
あたしはシナモン、金田はチョコを手渡されて一口食べる。
サクッという軽い食感と甘いシナモンの香りが口いっぱいに広がる。
美味しい〜!
そう思ったのはあたしだけじゃないようで、隣を歩く金田も嬉しそうに顔をほころばせていた。
「美味しい?」
そんな彼を見つめていると、金田もこっちを向いていて否応なしに目が合う。
「うん、美味しいよ!」
「食べていい?」
「えっ、う…うん!」
あたしが持つチュロスに向かって金田の顔が近付いてくる。
「…っ」
口に入れる瞬間にちらっとあたしの方を見てきた。
それで、自分が今どれだけ金田をガン見していたかに気付く。
慌ててパッと違うところに目線を逸らせると、チュロスから振動が伝わってくる。
もう一度チュロスに目線を戻すと一口分がなくなっていた。
「あー…美味しい」
「で、でしょ!?」
いつもと変わらないように声を出してみるけども、あたしの意識は金田が食べたあとのチュロスにしかいかなくて。
何回か、キス……はしたのに、これは初めてで次の一口に緊張してしまい口を少し開けたまま固まってしまう。
「食べないの?」
「えっ…た、食べるよ?!」
そんなことを聞かれれば、そう答えるしかなく…
そんなことを言ってしまえば、緊張を越えて食べるしかなく…
目をつぶって勢いよく、金田が食べたあとのチュロスにかじりつく。
「ふっ…」
すると、隣で金田はこらえていた笑いが出てしまったかのように肩を震わせていた。
口の中にあるチュロスをきちんと飲み込んでから訊ねる。
「え、なに?」
「んー…いや、可愛いなって」
はっ?!
Pardon?
何て言った?
可愛いって…金田が可愛いって言った!?
「なに固まってんの」
「へっ、いやだって…」
「ほら、俺のもあげるから」
そう言って、金田のチョコ味チュロスを口に押し込まれる。
…うん、美味しい。
って、そうじゃないんだけど!
反論したいあたしを止めたのは、やっぱり貴方のその表情。
嬉しそうな、幸せそうな…そんな穏やかな優しい笑顔をあたしに向けるから…
なんでもいいやって思えてしまうんだ。