【完】溺れるほどに愛してあげる


「…危なかった」





口ではそう言うものの、繋がれた手は強く強く握られていた。








「あああ!」

「え、なに?」





はてなマークでいっぱいの千景を強引に引っ張ったのは…





「プリクラ!一緒に撮りませんか…!」





彼氏と一度はしてみたいこと、その1つにプリクラを一緒に撮ることっていうのはきっと誰もが思うことじゃないかな。


現にあたしはそう。





「プリクラ…?良いけど」





観覧車の中とは違って、つれない態度になる千景。


そうだよね…男子は撮りたくないよね…


そうは思いながらもプリクラ機の中に入る。


ここならではの、むわっとした空気を感じながら、ポップな音楽に自然と体が動いてしまう。





「あっちがカメラだからね!」





ポーズなんか考えてない。


ぶっつけ本番。いざとなればガイド通りのポーズをとろう。





「それじゃあ最初は目の上で裏ピース〜」

「両手を頬に当てて〜はい、小顔っ」

「最後は全身撮影だよ!一番後ろまで下がらないと足が細く見えないから注意してね〜!」





とっこともよく撮るからあたしはすいすいと動けるけど千景は初めて…みたいで





「は、裏ピ…?え?」

「両手を頬にって…どこ」

「一番後ろまで下がったら足が細く写るの…?」





とか、ガイドにいちいち突っ込んでた。


その反応が初々しくて、隣で自然と笑みがこぼれて…可愛いなって思った。





「…何これ全然違う」

「盛れてるでしょ?」





印刷されたプリクラを見て発した第一声がこれ。


なんか…不機嫌?なんて違うよね。



対するあたしは、というと…いつも撮ってる、撮り慣れているはずなのに最初の1枚だけ引きつった笑顔になっていた。


多分、緊張から。


観覧車であんなことがあってから、また狭い密室に二人きりで…すぐ隣に千景がいるんだもん。


いつもどうやって笑ってたんだっけ?っていうくらいにわからなくなってしまった。



途中からは千景の初々しさにそんなことも忘れて笑ってたけど…


だけどね、やっぱり少し違う。


とっこと撮るときとなんだか違うんだ。


なんていうんだろう…


とっこと撮るときは完全にキメ顔。


今日は…キメてるとかじゃなくて自然に、幸せそうだなって自分でも思うくらいに自然な笑顔。


それにプリクラの盛り機能も付与されていい感じだと思うんだけどなぁ…

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