【完】溺れるほどに愛してあげる
溺愛*4章
愛別離苦
「ね〜昨日の見た?」
昨日の、というのは昨日やってたドラマのこと。
とっこが大好きな俳優さんが主演の刑事ドラマ。
「瞬くん格好よすぎない?
犯人を見抜いちゃうあの千里眼!」
繰り返し言うけれど、あたしのお父さんは刑事だ。
誰にも言ったことはない…だけどとっこになら…言ってしまってもいいのかもしれない。
それくらい信頼してる友達だから。
「格好いいけど、それだけじゃなくて大変なこともいっぱいだよ」
「…?
詳しいね?」
情報通のとっこに詳しい、なんて言われたことがないあたし。
だけど、とっこより知ってるのは
「ごめん、隠してて。
あたしのお父さん…刑事なんだ」
「えぇっ!?」
驚き、そして羨望の眼差しに瞬時に変わる。
普通の家とは少し違うお父さんの職業。
自慢したくて、でもできなくて…
刑事はヒーローとしての役どころをすることが多い。
でも…たまに悪役に回る。
事件を揉み消したり、いろいろ…
あたしはそんなシーンを見るたびに、これはドラマの中の話だからと言い聞かせていた。
ただ、ドラマをそのまま現実として捉える人も中にはいて…あたしの父親が刑事だと知った人から嫌がらせだって受けた。
きっと、とっこはそんなあたしの気持ちを汲んでくれたのかそれ以上は何も聞かなかった。
ただ、昨日のドラマの瞬くんが格好いいって連呼してたけど…
どうして黙ってたのか?
なんて、聞かれることもなかった。
そのことに一瞬驚いて…聞き逃しそうになった。
「え…なんて?」
「だ、だから〜…笠井くんっていいなって…」
笠井くん…というのは千景のことを「ちぃさん」と呼ぶ、赤髪で同級生の…陸くんのこと。
「それは…好き、ってこと…?」
「わ、わかんないけど…そうなのかな…」
いつもならもっと、ドンッと行け!なんてことを言うとっこが妙にしおらしく乙女の顔をしている。
…うん、絶対好きなんじゃん。
あたしは多少、接点はある。
どうにか2人をくっつけられたらいいな、なんて上から目線のようなことを考えていた。