【完】溺れるほどに愛してあげる

＊


「え、どこ行くの？」





それは、千景と一緒に下校していた時。


いつもの道とは外れてずんずんと迷わず進んでいく。





「…わ」





途中、スーパーでお花を買ったからそうかな…とは思ったんだけど。


着いたのはお墓。


『金田家之墓』


そう掘られた墓石の前に佇む。





「今日、命日なんだ。親父の」





千景が腰を下ろしたので、あたしも慌てて彼の隣に腰を下ろす。


手を合わせ、自然と目をつぶる。


横から囁くような優しい声が聞こえた。





「連れてきたよ。俺の大事な人、優愛」





そんな風に紹介されて思わず心を乱してしまう。


だけど、千景のお父さんがあたしに微笑みかけてくれているような気がした。


会ったことはおろか、顔さえ見たことないのに。





「初めまして…城崎 優愛です」





そう、千景のお父さんに向けて微笑み返した。


──千景はあたしにとっても大事な人です。


なんていう想いと共に。





「ずっと紹介したかったんだ、優愛のこと」

「そ、そうなの？」





親に紹介するって…っていう深い考えはやめた。


きっと千景はそんなつもりで言ったんじゃないと思うから。



…あたしは嬉しいけどね？





「んーでも、やっぱりまだ来てないか…」

「誰が？」

「誰かわからない人」





あたしの頭の中は疑問に埋め尽くされる。


…誰かわからない人を待ってるの？


しかもお墓で？





「命日になると必ず来てくれる人がいるんだ。でも会ったことないから誰かはわからなくて」

「知り合い…なのかな？」

「多分、夜に来てる」

「夜…」





会社員？なのかな…


夜、暗くなったお墓を想像したらぞわっと背筋が凍りつくような感じがした。



あまり人に見られたくないからわざわざ夜に来てる…とか考えすぎだよね。