【完】溺れるほどに愛してあげる
少し重めのドアを力いっぱい押して開ける。
ギギギィという音とともにぶわあっと風が吹き込む。
雲ひとつない晴天。太陽の光が輝くその先に目標の人はいた。
金髪がキラキラと光っていて、オーラが半端じゃない。
「おまっ…また千景さんに喧嘩売りにでも…」
坊主が番犬かってくらいに吠えかかってくる。
そんな坊主を右手ひとつで黙らせるこの金田 千景。
「何か用?」
声は穏やかで、声だけ聞いたら本当にこの不良集団を仕切ってるトップなのかって思うんだけど…
目にはわずかの笑みも含まれていなくて、妙な威圧感がある。
ここはお前がいるべきところじゃない。さっさと出てけ、そう言わんばかりの視線。
やっぱりこいつがトップだって感じさせられる。
それでもあたしは話をしなきゃいけない。
怖がってなんかいられない。
「…午後の授業。ホームルームに出てほしいの」
体育祭の種目を決める大事な時間。
貴方にも参加してほしいから。
「俺は出ないよ」
「どうして…っ!」
「授業に出るつもりないから」
どうしてそんなに頑なに拒むの?
それならどうして高校になんか来たの…?
「体育祭…」
「それも参加しないから」
「そんな…」
クラスは1年おきに入れ替わる。
だからみんなで一緒に何かをやれる時間はかけがえのないものなのに。
それがどうして伝わらないの。
「…あたし、諦めない」
そんなあたしを見て坊主や、他のメンバー達が嘲笑う。
「どっかの物語の主人公ですかー?」
そんな中、金田だけは笑わないであたしの目だけを見ていた。
きっと学校生活の楽しさをわかれば、この人だって変わるはず。
その目からこぼれる悲しみを取り除けるはず。
あたしはこの時、自分でも思ってなかった感情に出会った。
それは救いたいって思ったこと。
どうしてそんなに悲しそうに、つまらなさそうに生きているのか。
そこから救い出したい、と。
そんな風に思ってしまった。
不良なんて、これから一生関わるはずもないって思ってたのに…