【完】溺れるほどに愛してあげる
「わ、私…取り返しのつかないことしちゃったのかも…」
「え?」
先日のあたしみたいに顔の色を失くしたとっこが話すには。
あたしが歯医者の予約が入っていて先に帰ったあの日、委員会で陸くんと会ったらしい。
同じ委員会にいたという事実に驚いて嬉しかったとっこはとても機嫌が良かった。
「…なのに、優愛のこと聞いてきたの」
「あたしの…?」
「優愛のお父さんの仕事って知ってるかって…」
今思えば、そんなことを聞いてくること自体おかしいってわかるのに…
後悔に暮れるとっこはなおも続ける。
「でもね…その時…モヤモヤっていうかザワザワっていうか…優愛と笠井くんのあの光景が頭に浮かんでなんとも言えない気持ちになってたの」
「あの光景?」
そう聞くと、とっこが日誌を職員室まで届けに行った日まで遡った。
誰もいなくなった教室に彼は来た。
いつもと様子の違うあたしを心配して。
その後、あたしの髪についたゴミを取ろうとして…顔が必要以上に近付いたあの瞬間。
あの瞬間をとっこは見ていたらしい。
「優愛が金田くんのこと本当に好きなの知ってるし、笠井くんとも絶対何もないって…わかってたのに」
つい、言ってしまった、と小さくそう言った。
多分とっこの中には、流石に言葉には表さないけれど…困ればいいとか、別にこれくらいとか、嫉妬によく似た感情が渦巻いてたんだと思う。
流石に言葉には出せないけどね。
…でもどうして陸くんはあたしのお父さんの仕事なんて聞きたがったんだろう?
そこが一番の疑問。
それに…とっこは陸くんには言ったけど千景には言ってないって、それだけは信じてほしいって泣きついてきて…嘘は言ってないはずだ。
とっこから聞いたことを千景に話した?
…何のために?
気付けば、千景にバレてしまって避けられているこの状況よりも、陸くんがなぜ千景に話したのか…そんな疑問で頭がいっぱいになっていた。