【完】溺れるほどに愛してあげる
--Chikage:Side--
「ちぃさんって優愛さんのこと、どこまで知ってるんですか」
いつになく、何故かやけに挑発的な陸。
どこまでって…何が言いたい。
いつもの陸ならこんなことは言わない。
こんな話し方はしない。
こんな顔は、目はしない。
「どういうこと」
だから俺もついつい反抗的な口ぶりになってしまう。
お前が、優愛の何を知っているんだ。
俺の知らない優愛の、何を知っててそんなことを言う?
「まぁ…話せなかったのかもしれませんけど」
「だから何のこと」
詳しいことを何も話さない陸に、俺の知らない優愛の"何か"を知っている陸、そしてどこか上からものを言おうとしている陸。
すべてに苛立ちを覚えた。
「お父さんの事件、酷かったですよねぇ」
「…は?」
何でお前がそんなことを知ってる?
誰も知らないはずなのに、どうして陸は知っている?
「憎いですよね。その刑事。
今でも憎んでるんでしょ?」
未だ追いついていない頭で流れるような陸の言葉を拾う。
今まで大人しい、俺らには合わないどこか落ち着きを持った陸は嘘だったかのように今の陸はニヒルな笑みを浮かべていて。
黒いオーラがこれでもかってくらいに陸の背後を覆っていて。
「それが…」
「その刑事の名前、覚えてます?」
俺が言い終わるより先に、俺の言葉さえ遮る陸。
覚えてるよ。
シロサキ
その名前はずっと頭に残っている。
シロサギ
ああ、こいつは白詐欺なんだと思った。
素人を騙す詐欺師のことを白詐欺と呼ぶらしい。
こいつはそうだと思った。
刑事として、国民のために働いている。
国民を犯罪から守ろうと、治安を維持しようと言っているくせに俺の親父を逮捕した。
無罪の親父を、逮捕した。
俺にはそれが一種の裏切りに思えて。
普段は善い人の仮面をかぶっていながら実際、俺達は騙されていたんだと思えた。
シロサキ──その名前を一時だって忘れたことはない。