【完】溺れるほどに愛してあげる


「その顔は忘れてないって顔ですね」





ニヤリとさらに口角を上げる。





「シロサキ、ですよ。シロサキ刑事。
そういえばすぐ近くにもいますよねぇ」





わざとらしく腕を組んで悩むふりをする。


シロサキ…しろさき…城崎。


確かに優愛の苗字は城崎に違いない。





「優愛さんですよ。城崎って、ありふれた名前なんですかね?」





…何が言いたい。


たとえ優愛の苗字が城崎だとして、何の関係がある?





「これ、何でしょう?」





そうして見せられるスマホの画面。


光が反射して見えないために、少しこちら側に傾ける。


映っていたのは家に入ろうとする優愛の姿。


これ、盗撮でしょ。


そう言おうとして止める。


なぜなら陸がスマホの画面を右にスライドして出てきた写真に息をつまらせたから。





「これ…」

「誰だと思います?
スーツの男性」





目を疑う。


嘘だ、ありえない。


優愛と同じ家に入っていくスーツの男は…


親父を逮捕した──シロサキ刑事。


7年間、この顔を忘れた日はない。





「優愛さんのお父さん、刑事なんですって。知ってました?」





待ってくれ。頭が理解しきれない。処理しきれない。


親父を逮捕したシロサキ刑事が優愛の父親…?


未だ困惑している俺を置いて、陸はやたら楽しそうに続ける。





「知りませんよねぇ?
まさか優愛さんが7年間憎んだ男の娘だったなんて」





やめろ。言うな。


そうじゃないと…俺の中の優愛が変わってしまう。


他にないくらい大事な人。


笑顔が眩しいくらい輝いて、いつも楽しそうで。


自分の決めたことには一生懸命に取り組んで。


…何より俺を導いてくれた、救い出してくれた。


優愛が笑っていればそれでいいと思えたし、できれば自分が笑わせたいと思った。


可愛くて可愛くて、好きで好きで仕方なくて…



そんな優愛が、俺の中の優愛が、変わってしまう。


7年間ずっと憎んできた…その娘、に変わってしまう。



そんなの嫌だ。俺はずっと優愛のことを大事に思っていたい。



本当にそう思うのに…





「黙ってたのって、知ってたからなんじゃないですかねぇ?」





陸のその一言が一層強く鼓膜に響いた。

< 121 / 154 >

この作品をシェア

pagetop