【完】溺れるほどに愛してあげる
もし、親父と優愛の父親の件を優愛が知っていたなら…どうして言わなかった?
言えば俺が離れていくとか嫌いになるとか拒絶するとか……そんなことを考えていたんだろうか。
そんなこと、ないのに。
優愛から話してくれれば、俺だってこんなに混乱しなかったかもしれないのに。
またも信じてもらえなかったのか。
その思いが胸の中を占領する。
バレなければいいと思っていたのか?
俺が何も知らなければ、それでいいと?
「ごめん、優愛…」
俺はそこまで大人になれない。
どうやって優愛の顔を見ていいのか。
どうやって優愛と話せばいいのか。
わからなくなってしまった。
…もう少し、1人で考えたい。
俺は2学期になって初めて、学校を休んだ。
優愛にも、誰にもLINEYを返す気にはなれなかった。
少しだけ、距離を置きたいと思った。
*
『大丈夫?』
金曜日の夜、優愛から届いたメッセージ。
トーク画面を開いた。
既読マークがついただろう。
でも…返せなかった。
なんて言えばいいのか。
一つ言ってしまえば、自分が思っていること全てをぶつけてしまいそうで怖かった。
俺はそのまま寝た。
土曜日、日曜日と優愛に返信していないことの罪悪感に打ちひしがれながら夜を明かした。
月曜日、新しい週になっていつもなら清々しい気分なのに今日は違う。
重くだるい。
学校には屋上に顔を出しただけ。
いつものように亮や、他のやつらがいて。
「学校休んでたんですよね?大丈夫なんすか?」
やら
「LINEY返してくださいよー!」
やら言われた。
俺と優愛が今どうなってるのかなんて、きっと知らない。
それに唯一知っている陸もいないようだった。
学校へは行ったものの、やはりどこか体が重くてすぐに校門の外へ出る。
この辺をぶらぶらでもしようか。
家に帰る気分でもなく、かと言って店に寄る気分でもなかった。
熱くも寒くもないぬるい風がゆらゆらと吹く。
それはどっちつかずな俺の心に似ているようだった。
今は避けてしまっているが、本当の意味で突き放したりできる気もしないし、だからと言って何もなかったかのようにできる気もしない。
…やっぱり俺には優愛が唯一無二の、大事な人っていう以外ありえなかった。
だって、こんなにも毎日考えてしまう。
そりゃ俺だってずっと一緒にいたい。
…でも心のどこかでそれを阻んでるやつがいるんだ。
そいつがいる限り、一緒にいられない。
優愛を傷付けてしまうかもしれないから。
優愛が大事だからこそ…今は、今だけは、距離を置きたいんだ。
--Chikage:Side End--