【完】溺れるほどに愛してあげる
「ちぃさん本当にお父さんと似てますよね」
…似ている、なんてどうしてわかる?
それに誰にも親父と俺が似ているなんて言われたことはない。
「困惑の時の顔…本当に似てますよ。
何で知ってるかって?
見てましたから。連行されているところ」
ニコリと笑う陸に、俺は背筋が凍る。
は?
俺の親父が連行されてるところなんて…陸は俺の家近くにいたのか?
刑事──優愛の親父さんは俺の家に親父を探しに来た。
任意同行を求められた親父はそのまま連れて行かれて…
…家に帰ってくることはなかった。
もし、あの時近くにいたなら…何でそんなところにいた?
野次馬さえもいなくて静かに連れて行かれたあの場所に…たまたま通りかかった?
住宅街で店なんかないあんな場所をたまたま通る?
同じくらいの年齢の子もいないのに、あんな場所に何の用があって?
疑問がつきない。
疑問に思わないはずがない。
「いや〜意味がわからないって顔してましたよね。そりゃそうだ。
…だって何の関係もないんだから」
含みを持たせたようにふふっと笑って俺に視線を合わせてきた。
まるで挑発。
「会う予定なんてしてるから。
だから付け込まれるんですよ」
…確かに逮捕された理由として、親父と被害者の人の間で会う予定があったこと。
それが大きかったらしい。
しかも理由が、借金回収。
親父は被害者の同級生に金を貸していた。
ただ被害者の財布や部屋の中にも返せるような金額はなく、返済を拒否され逆上した親父が刺した…それが警察の推測。
インターホンからも親父の指紋が出て…
実際、親父は約束の時間に被害者の家を訪れ何回かインターホンを押してしまっていた。
そのことが…犯人に付け込まれた理由だって?
そんなの、親父は悪くない。
絶対に悪くない。