【完】溺れるほどに愛してあげる
「権力のある親を持つ子供は何事にも有利っていうか、勝ち組なんですよね〜
だから僕はここにいられますし」
…陸の父親は権力者ってことだろうか。
どっかから越してきた…とか?
「ずっとねぇ、ちぃさんを見てきたんですよ」
ねっとりとまとわりつくような視線を向けられて身震いしてしまう。
この異様な空気はなんだ…
「その顔を毎日見てきた。すぐ隣で。
お父さんのことで苦しむ顔も、優愛さんと出会って幸せそうな顔も、その優愛さんに裏切られて深く傷ついた顔も…全部全部見てきましたよ」
すぐ傍で、俺の苦しむ顔を見て楽しんでたってこと?
なんて悪趣味。
本当にこいつは陸なのかと思う…
「あれほどたぎることって他にないですもん」
まるで大好きなことをしている時のようなニコニコの笑顔を向けられる。
…その笑みは一体どこから来るというんだ。
「一番憎むべき人物が隣にいながらねぇ?」
…それでも俺はやっぱり優愛のことが好きで。
ずっとずっと好きで。
「今だって何の危機感もなくここに立ってる」
危機感?
何に対して危機感を持てばいい?
確かに陸の様子はおかしいし、この倉庫街の雰囲気も悪い。
…警戒はしてる。
「教えてあげますよ。
充分楽しんだし。
…面倒なことも起きそうだから」
「は?」
そうして一歩、また一歩と俺に近付いてきた。
ボール一つ分くらいの距離まで迫ると、グイッと顔を俺の耳元まで寄せてくる。