【完】溺れるほどに愛してあげる


しばらくあたし達の間には沈黙が流れていた。


その沈黙が破られたのは千景の家に着いたから。





「どうぞ、入って」





言われるがままついていき、千景の部屋に入る。


洗練されていて、無駄なものがない。


あたしの部屋より片付いているし、綺麗。



そんな風に感激していると、バタンとドアが閉まる音がして不意に後ろから抱きしめられる。





「ち、かげ?」

「…優愛」





千景はただただあたしの名前を呼ぶだけだった。





「千景」





後ろを振り返り、千景と向き合う。


…あぁ、やっぱり好きだな。


なんて改めて思う。





「俺、ずっと謝りたかったんだ…
ごめん優愛。あんなに酷い態度をとって…」





申し訳なさそうに、しゅんと肩をすぼめている彼。





「…謝るのはあたしの方だよ。
だって隠してた、黙ってた」

「…うん」





あたしの話を相槌を打ちながらきちんと聞いてくれる。





「千景が知ってしまったら離れていっちゃうって怖かったの。だから言えなかった…」

「そうなのかなって思ってた。でも信じてほしかった…俺はどこにも行かないって。嫌いになんてなったりしないって。
ずっとモヤモヤして、こんな気持ちじゃ優愛とはいられないと思ってあんな態度とったんだ…」

「そう…だったんだね。
お互い気持ちを伝え合わなかったからすれ違ってたんだね」





好きだから言えないこと


好きだから知りたいこと


きっとあたし達はこれから何回も同じようなことを繰り返すかもしれない。


ただその度に何度でも仲直りをしよう。


遅くても、気持ちを伝え合おう。



そして、だからこそ千景に言いたいことがある。


それは…





「陸くんの面会に行ってきたよ」





…陸くんの話。

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