【完】溺れるほどに愛してあげる
「…あたし?」
「優愛さんが城崎刑事の娘さんだと知った時は驚きましたが、優愛さんといる時のちぃさんは今までで一番幸せそうだった。
僕は今まで…ちぃさんを見守っているつもりだったんです。お父さんがああいうことになってしまった後、不安定だったちぃさんは悪の道に進んでしまいそうだった。これ以上不幸にさせるわけにはいかなくて、何とか阻止してました。
でも、優愛さんならきちんと支えてくれるでしょ?」
「…陸くん…」
ずっと俯いてた顔を上げてニコリと笑う。
細められた目があたしの目と合って、あたしまでニコリとしてしまう。
「2人の仲をかき乱してすみませんでした。僕の計画には優愛さんと城崎刑事が必要だったんです。それで仕方なく…」
すみませんと、もう一度深く頭を下げる陸くん。
「ちぃさんは誰よりも幸せになる権利がある。どうかちぃさんのことを、よろしくお願いします」
「…!
うん。もちろん」
たった一つの事実に対して真実は必ずしも一つではないのかもしれない。
千景の考える真実と、あたしや陸くんが考える真実はきっと違う。
でも全員が同じ真実を見ていなくていいんじゃないかなって…そんな風に思う。
それが、陸くんの願い。
人生をかけて願った願い。
あたしは彼の意思を尊重したいから、千景にはこの真実は伏せておく。
不思議にも罪悪感は抱かなかった。
*
千景がこのことを知ることはないけれど、あたしが知ってる。
そして陸くんの意思をあたしが引き継ぐ。
そう決意した。