【完】溺れるほどに愛してあげる
「千景」
「ん?」
「幸せだね」
「もう離さない」
千景の肩に顔をうりうりと押しつける。
大きく息を吸えば、千景の匂いでいっぱいになって気持ちが落ち着いていく。
「えっと…千景?」
だけど千景からの返答はなくて。
「すぅ…すぅ…」
代わりに静かな寝息が聞こえてきた。
寝てる?
なのにあたしを抱きしめる腕はちっとも弱められていなくて動けない。
無理に動こうとしたら起こしてしまいそうで申し訳なく思った。
だってきっと今日は疲れた日。
やっと安心する家に、全てが終わった晴れ晴れした気持ちで帰ってこられた。
金色の髪をぽんぽんと撫でる。
するするした感触が手に伝わる。
おまけに体に感じる体温も千景が寝ているせいか高くなっていて、あたしまで眠くなってきた。
「…ふわぁぁ…」
少しだけ。少しだけなら…いいかな。
あたしはそのまま目をつぶり意識を飛ばした。
*
「…わ」
目を覚ますと2時間も経っていて、そろそろ日が傾き始める頃。
重い頭を起こして周りを見回すけれど、寝る前と変わっていることは何もなくて。
千景の寝顔がすぐ傍にある。
全てのパーツが整っていて綺麗な顔。
「顔のパーツは同じはずなんだけどなぁ…」
まじまじと近くで見入っても、格好いいことには変わりなくて。
天は二物を与えず、ってどこの誰が言い始めたんだろう?
与えてるよ。二物も三物も。
「…優愛?」
「起き……」
起きた?
そう言おうとして千景の方を向くと、とろっとした目をしていて思わず息を呑む。
その瞬間、唇にもたれかかるようなキスをされて一気に苦しくなる。
「優愛…」
何度も何度も繰り返されるそれに耐えきれず肩を押してしまう。
「…っ!」
その反動でなのか寝ぼけまなこをぱちぱちさせて、再度あたしを見る。
「あっご、ごめん…!
俺寝ぼけてすごいこと…」
「う、ううん大丈夫!」
慌てて首を横に振るけど、沈黙が流れてしまう。
10秒
30秒
1分
何か話題はないものか、と頭の中をぐるぐるさせてみる。
しかし思いつくこともなく、とうとう逃げに走ってしまった。