【完】溺れるほどに愛してあげる
「あ、あたしそろそろ帰らなくちゃ…」
「…帰るの?」
まだ少し眠いのか、ぼんやりとした潤んだ瞳で見つめられる。
「…うん」
「帰さない、って言ったら?」
「え?」
真剣な顔で言ったかと思うと、急にニコリと笑って
「なんて、冗談」
このままじゃ本当に心臓がもちそうにない。
今日で何回ドキッとさせられた?
数え切れないよ…
「明後日から学校にもちゃんと行くから」
「うん。待ってるね!」
この前までの日々に戻れる。
隣で授業を受けて。
一緒にお昼ご飯を食べて。
一緒に帰って。
そんな日々が戻ってくることを嬉しく思った。
*
「いやー良かった良かった!
金田が無事で安心したぞ!」
金田が学校へ復帰するやいなや、担任はそう声高に言った。
クラスの子達も金田を心配してくれていたようで、さっきから話し込んでいる。
時々聞こえてくる会話には
「事件に巻き込まれてるのかと思ったよ!」
「刺されたりしたのかと思った!」
など、実はみんな知ってるんじゃないかってくらいの推測が飛び交っている。
陸くんのことは誰にも言ってない。
多分、千景とのことを知る人は他にいないと思う。
「階段から落ちた」
千景もそうするつもりらしい。
真実を知るあたしは余計、陸くんを悪者にするような発言はできないけど、千景もきっとそう。
「え、なに?実はドジっ子?」
「たまたまだよ」
「それはどうかなぁ〜?」
クラスの子との関係もすこぶる良好。
…だからといってあたしが不安になることももうない。
信じてるから。
千景はあたしのことを大切に思ってくれてるって信じてるから。
だから安心して千景を好きでいられるんだ。