【完】溺れるほどに愛してあげる
「あの、すいません…」
「はい。何でしょう?」
「道をお尋ねしたいのですが…」
待ち合わせ場所でスマホを触っていると、黒髪で高身長の男の人に声をかけられる。
年齢はあたしと同じか…少し上?
「このパンケーキ屋さんなんですけど…」
「それなら…この通りを真っ直ぐ行って、3つ目の信号を左に曲がったらお店の看板が見えてきますよ」
あたしも、とっことよく行くお店。
良かった。知っているところで…
ちゃんと教えてあげられる。
「ここすっごく美味しいですよ!」
「本当ですか?!
今度、彼女と来るんですけどその下見で…」
「そうなんですね、絶対喜んでくれると思います!」
「ありがとうございます!」
眩しい笑顔を咲かせてお店の方へ向かっていく。
そっか。下見…
初々しいカップルを想像してしまって頬が緩む。
きっとあの子も彼女さんのことが好きで、彼女さんもあの子のことが好きなんだろうな。
迷ってないかな、大丈夫かな?
彼女さん、喜んでくれるといいなぁ…
「………なにしてんの?」
「…うぇっ?!」
気付くと、背後に黒いオーラを纏った千景が立っていた。
目が笑っていない。
お、怒ってらっしゃる?
「…今の誰」
「道を聞かれただけだよ?」
「あんな楽しそうに?」
「彼女さんとのデートの下見って言うから、なんだかほっこりしちゃって」
あたしがそう言うと千景は、そう…とホッとした様子だった。
ナチュラルに手を繋がれて歩いていると
「優愛は…俺以外見ちゃダメ」
なんて言うものだから、思わず大声を上げてしまう。
「えぇ?!」
「俺が目を離した隙に誰かに攫われそうで怖い」
「そんな子供じゃないよ!」
まるで誘拐を恐れる親みたいな言い方。
ただあたしももう高校2年生。
誘拐なんて…
「前、藤堂に拉致されたくせに」
「あ、あれは…」
あの時のことを出されると何も言い返せなくなるよ…