【完】溺れるほどに愛してあげる
「毎日楽しくなさそうだから…」
「あぁ。まぁ…」
「どうして?」
聞きたかったこと。
どうしてって聞いて教えてくれるかはわからないけど。
でも金田が少しだけ悲しい目をして、懐かしむような顔をして…
その眼差しにもまたドキリとする。
「高校に来たのは、ある人との約束があったから」
「ある人?」
「そう」
誰?と口から出そうになったのを慌てて飲み込む。
…まだ、そこには触れていけない気がする。
だからまだ聞かない。
いつか教えてほしいけど…
「毎日何もないよ。何もないまま過ぎていく」
あたしの存在が少しでも影響してたらいいのに。
何の役にも立てないんだ…
「…それじゃあどうして生きてるの」
「どうして生きてるか…難しい質問をするんだね。俺にもわからない」
「出会うためじゃない?」
うん、きっとそう。
「楽しいこと、嬉しいこと、今まで生きてて良かったって思える瞬間に、出会うためだよ」
まだ楽しさを知らないなら、これから知っていけばいい。
あたしが教えてあげる。
貴方が悲しい目をしなくてもいいように、その代わりもっともっと多くの笑顔を見れるように。
「ロマンチストなんだな」
「…え」
そう言われてはっと気付く。
今めっちゃ恥ずかしいこと言った…?!
「ごめん、今の忘れ…」
「…そうかもな」
思ったよりもあっさり金田はあたしの言葉を受け入れて目を閉じた。
「ありがとう」
「そんな…」
素直に礼を言う金田には爽やかな、キラキラした笑みが浮かんでいた。
「あんたが、変えてくれるような気がする」
その一言にあたしがどれだけ歓喜したか貴方はわからないでしょう。
そんな大したことない一言で、あたしの心は天国にも地獄にも行くんだよ。
もう、すっかり…あたしはこの不良を。
──金田 千景を好きになってしまったんだ。