【完】溺れるほどに愛してあげる
「と、藤堂さん!」
ナス男──藤堂はまだ目を覚まさないみたい…
え、何か…ごめんね?
「先に逝かせた方の勝ち、だよね?」
「あんた…何者?」
刑事の娘です。
なんて言えない。今までだってひた隠しにしてきた。
だって刑事ってドラマで見ると格好いいけど実際…あまり評判は良くないんだよ。
やれほとんど家にいない、だの。
犯人から恨みを持たれてる、だの。
国の犬だ、税金泥棒だって言う人もいる
このご時世。
そうやってのんびり平和に暮らせてるのは誰のおかげだよ…って突っ込みたくなるけど、言っても反感を買うだけだから心の奥にしまっている。
あたしはもちろんお父さんもお父さんの仕事も誇りだ。
格好いいもん。悪いことした人をちゃんと法で捌き更生させようと、被害者の方を安心させようと働くお父さんは格好いい。
「つ、強い女の子って格好いいかなーって…あはは」
って嘘も…見抜かれてるんだろうな、その顔は。
でも寄ってきた亮くんはすごくキラキラした目をしてあたしに話しかける。
「す、すっげぇ格好よかったっす!!
姐さんって呼んでいいっすか!!」
この前…というかさっきまでの態度はどうした。
180℃変わったよね。驚くほどの変わりっぷりだよね。
「姐さんはやめて…」
「じゃあなんて…?」
「優愛でいいよ」
「優愛さん!」
亮くんはすごく嬉しそうな顔をして笑っている。
いつの間にかあたしの周りには
優愛さん!優愛さん!
と呼ぶ不良に囲まれていた。
「ねえ」
「ん?」
「名前、何ていうの」
まさか金田から名前を尋ねられるなんて…
「城崎!城崎 優愛。
貴方と同じクラスで隣の席です」
「あ、教室には行かないから期待しないで」
ちょっとだけ期待したあたしが馬鹿だった。
何か、少しでも変えられたかな…なんて。
「…そう。城崎 優愛…ね」
でもあたしは金田がそう呟くのを聞き逃さなかった。
あたしに興味を持ってくれたこと、すごく嬉しい。
1歩ずつでも前に進んでる。
今更名前を聞かれる、なんて小さな小さな1歩だけど。
でも前進には代わりないから。
だからこの嬉しさを胸に刻むよ。
そうしてもっと金田 千景に対する恋心が大きく深くなっていくんだ。