【完】溺れるほどに愛してあげる
--Chikage:Side--
高校に入って、すぐに入院してしまった俺には何の思い出もない。
ほとんど学校には行ってなかったし、行く気もなかった。
だから2年になって退院ができると聞いても大して嬉しくなかったし、別にどうでもよかった。
俺を見て誰もが怖がって近寄ってはこない。
生徒も教師も。
なのに、何故か目の前のあんたは違ったんだ。
「か、金田 千景…」
自分からぶつかっておいて俺の名前をフルネームで呟く。
少しだけ怯えた目をして、それでもその目は逸らさない。
「染色、長髪、ピアス、制服にカバン。全部校則違反…だよ」
教師すらも咎めようとしない俺につっかかってくる。
こんなの初めてだ。
本当は怖くて仕方ないんじゃないのか?
「あぁ?お前、千景さんに喧嘩売ってんのか!」
そう威嚇する亮に一瞬ビクリと肩を震わせる。
ほら、怖いんじゃん。
あんたは俺らといるような人間じゃないんだよ。
「校則は、守らないと…」
それでも食い下がる。
「俺はいいの」
「よくない!」
いきなり大きな声を出す。
なんだよ、なんなんだろう。
あんたは一体何者なんだ?
「何なの、あんた」
そう聞くと困惑の色に変わる。
…困惑されても。
それが俺とあんたの出会い。
第一印象はつっかかってくる変なやつ。
ただ、それだけだった。