【完】溺れるほどに愛してあげる


「何で来てんだろ」





いつものように、昨日歩いた道を今も歩いている。



今日は体育祭。


出るつもりもなく、来るつもりもなかったのに。



ワイワイガヤガヤと外まで聞こえてくる生徒達の声は誰がどう聞いても楽しそうだった。



体育祭、か…



俺もその声につられて口角が上がってしまう。



…来年は、出てもいいかな。


ほんの少しだけ、そう思った。



校内には一歩も踏み込んでないから誰にも気付かれていないはずだった。


…のに、翌日嬉しそうな顔であんたは俺の目の前に来た。





「昨日!来てくれてたよね、学校まで!」





ど、どこで見られてたんだ?


いたとしても5分10分、大していなかった。



亮や陸達はきっと俺のことを笑うだろうから絶対知られたくなかったのに…



そう否定する俺に、写真を撮ったなんてカマをかけてまで認めさせようとする。


そうだよ。行ったよ。


あんたのせいで少しだけ興味わいたからな。



一つ大きく息をつくと、あんたは嬉しそうに笑う。





「毎日楽しくなさそうだから…」





毎日何もないまま過ぎていくんだからどうしようもない。


高校だって、好きで来てるわけじゃないし。



ずっと、楽しいことなんてなかった。


それはこれからも続くもんだと思ってた。





「楽しいこと、嬉しいこと、今まで生きてて良かったって思える瞬間に、出会うためだよ」





あんたは何でそんな純粋に生きれるんだ。


こんなのあんたくらいだよ。





「ありがとう」





きっと、俺はあんたのおかげで何か変われるような気がする。



あんたみたいな人、これから先絶対出会えないと思う。


ただただそんなことを思った。

< 36 / 154 >

この作品をシェア

pagetop