【完】溺れるほどに愛してあげる


いつもなら何か言い返せるかもしれないのに今は…ただ黙り込んでしまう。


中学で付き合っていた金田と高嶺さん。


きっとあたしよりも金田のことを知っている。


彼の闇を…知っている。



どうしてあんなに悲しみを帯びた目をしているのか、そしてどうして高校(ここ)にいるのか。



あたしでは踏み込めない場所に、この人は行けるのかもしれない。


だって元カノだから。


あんなに毎日が楽しくも何ともないって思ってた人がこの人を好きになって、付き合って…


信じられないけど信じたくないけど事実そうなんだから。





「迷惑とか考えたことないわけ?
彼のテリトリー荒らしといて」





迷惑…


金田もそう感じていたんだろうか。

思い当たる節がありすぎる。



だってうざいって、あれは本音だ。



毎日のように体育祭に出ろと、屋上に駆け込んで。彼らのテリトリーを荒らした。



ただ、あたしがそうしたくてしただけ。


なんて自分勝手で自己中なんだ。





「わかったらもう近付かないで。
私達の邪魔しないでくれる?」





何も言い返すことができず、去っていく高嶺さんの後ろ姿をただ呆然と見ていることしかできなかった。



ポツリと雨があたしの手に落ちて、頭に落ちて…


雨が目に見えるほど、髪や服が徐々に濡れていくのを感じるほど雨粒が大きくなる。


もう世の中は梅雨という時期に入っていた。


ザーッという雨の音とバサッと傘を開く音が鼓膜を響かせる。



あたしはただただ雨に打たれながら家に向かった。


カバンの中にある折りたたみ傘の存在すら忘れて、顔や手に当たる雨の冷たさを感じながら家まで走る。



目の前が歪むのは雨のせいか。


目頭が熱くなるのは雨のせいか。



こんなにも胸が痛いのは……雨のせい?

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