【完】溺れるほどに愛してあげる


急いで家着から私服に着替える。



夏だし、可愛らしいスカートを履いていこう!


意気揚々と準備をして、メイクや髪にも気合を入れて。


玄関のドアを開けると痛いくらいの眩しい陽射しが照りつける。


暑い暑い、そう思いながら心はワクワクでいっぱい。



学校が終わっても会えるあたし達。


向かってる最中にも


『まだ?』


とか


『遅い』


とかそんなLINEYに携帯が震える。


汗がにじみ出てきた頃、タイマン公園に着く。


それでも誰一人として見当たらなかった。



え、場所間違えた?


それとも遅すぎて帰っちゃった?


そもそも…嘘だったとか…?



急にネガティブになる思考回路。


思いつくのは嫌な妄想ばかり。


金田はそんなことするような人じゃないって思うのに、信じてるのに、目の前の光景と合わなさすぎて不安になっていく。



そんなあたしの頭をはっとさせるようにバイブ音が鳴る。


…金田!?


『後ろ』


勢いよく後ろを振り返ると





「…っ!冷たっ?」





おでこにひんやりとしたものがペチっと当たる。





「んん?アイス…?」

「そう。それ買いに行ってたの、暑いから」





な、なんだ…そうだったんだ。


やっぱり金田はあたしが信じている通りの人だ。


さりげなくあたしの分のアイスまで買ってくれてるし。





「溶けるから早く食べよう」

「そ、そうだね」





サクッとかじりつくと口の中でふわああっと溶けていくソーダ味のアイスバー。


冷たくて、甘くて…


美味しい。美味しいよ、金田。ありがとう。





「背中から不安があふれ出てて笑いそうになった」

「だ、だって…着いたのに誰もいないんだもん。もう帰っちゃったのかな、とか思った」

「帰るわけないでしょ」





金田はプラスチック容器に入ったソフトクリームを食べていて朝、話した内容を思い出してしまった。


…本当に乙女?


なーんて。


ソフトクリームとソーダ味のアイスバー、普通逆じゃない?


なんて、思ったりもした。





「甘いの好き?」

「好き」





何の気なしに聞いて、何の気なしに答えているだけ。


…なのに何故かひどく心臓がうるさい。


この"好き"は甘いものに対するもので、あたしに向けられたものなんかじゃ決してないのに。


何でドキドキしてるんだ。馬鹿なのかあたしの心臓は…





「そ、そっか…」

「美味しい」

「良かったね」





そこから他愛もない話をした。


まだ今日は7月21日。

始業式は9月3日。


1ヶ月以上もあるんだ。


その中で金田と会えるのは何日間だろう。


そう思うと、今この瞬間が本当に大切なもので手離したくないって本気で思う。





「…あ」





いつもなら気にもとめない看板に目がいく。


夏祭りのチラシが貼られた看板。


そっか、夏祭り。

とっこを誘って行こうかな…



でも今あたしの頭にいるのは貴方だけ。


…金田と一緒に行けたらこれ以上ないくらい幸せなのに。

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