【完】溺れるほどに愛してあげる
「ねぇ、変じゃない?!大丈夫!?」
「大丈夫だってば!」
お母さんの前で何度もターンをして確認してもらう。
「どこもおかしいところない!?」
「ないって言ってるでしょ!」
半ばキレ気味になるお母さん。
そりゃそうだ。こんな会話をさっきから何回も何回も続けているんだから。
「何をそんなに気にしてるの。
好きな人でも来るの?」
「そっ、そんなんじゃないよ!」
動揺を何とか隠したくて、隠せているだろうか。
実はその好きな人と行くんです…なんて口が裂けても言えない。
絶対に秘密。
あの後、とっこにも報告してめちゃめちゃ喜んでくれた。
泣きそうなくらい喜んでくれた。
今日をずっと楽しみにしてたんだ。
髪飾りをゆらゆらと揺らしながら、鏡を見る。
少しでも可愛いって思ってもらえたらいいな…なんて図々しすぎるかな。
だけど、早く金田の元に行きたい。
待ち合わせよりは少し早くなるかもしれないけど家を出る。
何かもう…いてもたってもいられないの。
電車で5つ先の駅を目指す。
車内は浴衣を着た女の子でいっぱい。
赤、ピンク、水色、白、黒。
カラフルな浴衣で色づいている。
あたしはピンク色にたくさんのお花が描かれたもの。
一目惚れして買ってもらった。
早く会いたい、会いたいよ…金田…
待ち合わせは駅前にある大きな木の麓。
「…!」
待ち合わせ時間より20分も早く着いてしまったのに、金田はもうすでにそこにいた。
普段履かない下駄をカタカタと音を鳴らして彼の元へ急ぐ。
「お待たせー…」
前髪を整えながらそう声をかけると、携帯の画面を見てた視線はあたしの目に、そして浴衣や髪に向いた。
…と、突然。
彼の表情が曇る。
え…似合ってない?変なのかな…
「それでここまで来たの?」
「うん」
「1人で?」
「そうだよ」
あたしが答えると金田は、はぁ〜…と大きなため息を一つついた。
「やっぱり家まで迎えに行けば良かった」
「なっ、別に1人で来られるよ!
今も現にここにいるし」
「〜っ。そういうことじゃない…」
俺はそんなことを言ってるわけじゃない、と再度強めに言ってから
「危ないだろ、そんな格好で1人で電車とか乗ってたら」
それでも浴衣姿の女の子なんていっぱいいたよ?
これから待ち合わせかなって1人でいる子ももちろんいたし。
だから別に危なくもない…のに。
「心配なんだよ!
…に、似合ってるから…」
「…へ?」
顔を真っ赤にして、手で隠すように鼻をすすってる。
「…似合ってる?」
「…うん」
「可愛い?」
「…いいんじゃない」
もうそれだけで充分。本当に充分。
嬉しい。良かった。
あんなにお母さんに浴衣の確認してもらって。
…金田を夏祭りに誘って、良かった。
「ニヤケすぎ」
じとーっとした目で見つめられるのを、あたしは満面の笑みで返した。
「だって嬉しくて」
「…そう」
「金田を夏祭りに誘えて良かったなって」
「俺は初めから一緒に行くつもりしてたけど」
金田がそうぼそっと呟くのを聞き逃さなかった。
え?あたしと行くつもり…してたの?
「夏祭りは行かないって…」
「"みんな"とは行かないって意味で言ったんだけど…」
そうだ、あたしあの時
『みんなと行くの?』
って聞いたんだ。
金田の
『いや、行かない』
は、(みんなと一緒には)行かないって意味だったんだ。
「なんだ、そっかぁ…」
あたしの勘違いだったんだ…
「それじゃあそろそろ行くか」
「うん」
あたし達は多くの人が向かう方へ同じように歩いていった。