【完】溺れるほどに愛してあげる
「うわぁ…人いっぱい…」
多くの人で賑わっている神社。
まだ夕方だから辺りは明るくて屋台の提灯はそこまで目立っていないけど、美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。
「あ!見て射的!
ヨーヨー釣りに金魚すくいもあるよ!」
ご飯も気になるけどそれ以外に目がいってしまう。
「…って、あれ?」
隣を歩いていたはずの金田がいない。
あたしが立ち止まったの気付かず行っちゃったのかな…?
少し背伸びをして金田の姿を探すけれど、人の波に押され上手く探せない。
そんな時、パッと手首を掴まれる。
「…!?」
視界に入る金色の髪。
肩で息をする金田だった。
「急にいなくなるからっ…すげぇ心配した…」
「ご、ごめん…!」
あたしが無事だったとわかると、金田の視線があたしがさっきまで見ていた方に移る。
「射的?」
「え?あ、うん。そう!」
あたしも射的の方に視線を戻す。
「懐かしいなぁって。
昔やったことあるけど全然ダメだった」
そう笑いを含ませて言うと、金田はニヤリと口角を上げた。
「やってみる?」
「…笑わない?」
「見てみないとわからないだろ」
おじさんにお金を渡して、真ん前のぬいぐるみに狙いを定める。
どうせどれを狙っても取れないんだから、この中で一番欲しいやつにしよう。
もし万が一、億が一にでも取れた時のために。
…まぁ、予想通りビクリともしなかったけれど。
「おじさん、俺も」
「はいよー」
隣で金田も構える。
狙うのはあたしと同じぬいぐるみ。
射的でぬいぐるみなんて取れるわけない。
金田だってダメじゃーん!
そう言おうとして、声を出す準備をする。
でもあたしの予想はいい意味で裏切られた。
チリンチリーン
という鐘の音と
「お兄さん凄いね!」
おじさんの驚いた声だった。