【完】溺れるほどに愛してあげる
「はい」
コルクで落としたぬいぐるみをおじさんから貰って、そのままあたしの前に差し出した。
「…え?」
「別に俺はいらないから」
満足気に笑う金田からぬいぐるみを受け取る。
「ありがとう…!
凄いね金田!」
あたしがそんな風に褒めると金田は照れくさそうに頭をかいた。
「まぁこれくらいは…」
「…銃とか持ってないよね?」
一発で落としてしまうなんて、おじさんも思わなかっただろう。
普段から慣れてないと…難しいと思う。
「持ってたら捕まるな」
銃刀法違反は3年以下の懲役、または50万円以下の罰金…だよ。
詳しいのは父親が刑事だから…なんていうのは心の中に留めておいた。
だって金田はただでさえお父さんのことで警察に良いイメージは持っていないだろう。
だからあたしの家族のことは言いたくない、そう思う。
*
射的が上手かった金田でもヨーヨー釣りは苦手なようで2人とも1つも取れないまま終わってしまった。
おまけで1つはくれるんだけどね。
あたしは右手でボヨンボヨンとヨーヨーをつく。
「…っ!」
でも左手が大きくゴツゴツとしたものに包まれる。
それは紛れもなく金田の手。
「か、金田?!」
思わず手をバッと上にあげてしまいそうになるのを、金田は離さなかった。
「…さっきみたいにはぐれたら困るから」
さらにぎゅっと力を入れられる。
緊張して手汗をかいてるのがわかる。
滑りそうになるのも気にせず繋がれた左手。
あたしはコクリと頷いて、金田の隣に肩を並べる。
そして、もうそろそろ花火が打ち上がる頃。
あたしの計画が近付いてくる頃。
「あたし花火がよく見える場所知ってるの。
あんまり人もいないし穴場なんだよ!」
「なら、そこに行く?」
「この神社を出て、ちょっと行ったところ!」
神社の先へ先へと向かう人の波を逆流するように出口を目指す。
さっきよりも強く握られた手を引っ張られる。
金田のちょうど後ろを歩くように先導されて、あたしが人にもみくちゃにされることもなく下駄で躓くこともなかった。