【完】溺れるほどに愛してあげる


ざわざわと騒ぐ声が聞こえる。


なに。あたしは今ものすごくもやもやしてるんですけど。





「おはよ。優愛」





誰かが机に顔を伏せて寝ていたあたしの頭をぽんぽんと叩いた。


見えなくてもわかる。

声だけで、わかる。





「金田……!?」





クラスを、いやクラスだけでなく学校中を騒がせていた張本人は金田 千景だった。


何で金田がここにいるの?!


教室には来ないんじゃなかったの?!



頭の中を処理できないほど、この状況はあたしを混乱させた。





「金田くんだ…!!
格好良い〜」





ほら。金田は気付いているかわからないけど、四方八方からハートが飛んできてるよ。





「ど、どうしたの?」

「なに、嬉しくないの?
あんなに来い来い言っといて」





嬉しくないわけないよ。

でも…だってもやもやするんだもん。


前はこんな感情を抱くなんて考えたこともなかった。


あの時はただただ来てほしい、参加してほしい、学校の楽しさを知ってほしいってことしか考えてなかったから…





「う、ううん!
嬉しいに決まってるじゃん!」





この笑顔は心からのものなのだろうか。


それすらも自分ではわからなくなってしまった。


それでも、金田が隣の席に座ってる。そんな夢見た光景が今目の前で起きていて、やっぱり嬉しく感じるんだ。


…だけどね、もうタイムオーバーだよ。





「席替えで隣になれないかなあ〜!」





1学期に1回、あたしのクラスは席替えをする。


今こうやって隣同士で座っていられるのもこの時だけなんだよ…



席替えをして金田の隣が誰か違う女の子になったら…考えただけでももやもやしてしまう。


英語の授業では必ずと言っていいほどペアワークといって隣同士で英文を読みあったり一緒に解いたりする。


そんなの…見るのも辛いのに。


対して苦痛でもなかった授業が辛くて辛くて仕方なくなっちゃう…





「起立、礼!着席」





そんなことを考えている間に、ろくに金田と喋れないまま担任が来てしまった。





「よし。みんな元気そうだな!夏休みはハメ外して変なことしなかっただろうな〜?」





そんな、先生のおちゃらけた発言に笑いが起こる。





「ええと…金田は2学期もけっせ……
おおお!!」





欠席、と言いかけて大きな雄叫びを上げる。


そのままずんずんと金田の席までやってきて、テンションの上がった声で嬉しそうに





「よく来たなぁ!
担任の門松だ!よろしくな」





まるで金田が転入生のように今更の自己紹介をした。


そのことにも笑いが起こる。


なんて朝から元気なクラスなんだ。


あたしもさっきまで考えてたことなんて忘れて、ただ笑っていた。

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