【完】溺れるほどに愛してあげる


「じゃあ金田も来たようだし!席替えするぞ」





ムシムシと暑かった始業式もやっと終わり、そしてそんな始業式よりも地獄が訪れる。





「神様〜仏様〜
我に運を!」

「あーマジで頼む…」

「隣になれたらいいね!」

「…金田くんと……隣に…」





ところどころでそんな声が聞こえる。


あたしも必死に神頼みに走る。


お願いだから、金田の隣にさせて…


すると、神は降りてきた。


あたしの元だけに、降りてきた。





「あ、俺。優愛の隣以外ありえないんで」





すくっと右手を上げて放った金田の言葉によって。


クラスは一瞬ざわつくものの、誰も何も言い返せない。


仕方なく…といった感じで、あたしは金田の隣を死守することに成功したのだ。


動きに出てしまいそうなほど大きく、心の中でガッツポーズを決めた。



と言っても席が固定なのも面白くない、ということであたしも席替えに参加することになった。


教卓の上に二つ折りの紙が置いてあって、そこには番号が書いてある。


黒板には席と番号が振られていて、各自引いた数字の席に移動…という流れ。


1番最初に引かせてもらい、その隣は自動的に金田になる。





「わっ、一番後ろ…!」





黒板に向かって、あたしは左から2番目。金田は窓際だ。





「くじ運いいじゃん」

「今回は神様がすぐ傍にいてくれてるみたい!」





なんてったって隣に金田がいる。


お隣さんで授業を受けられる。なんて幸せなんだ…


帰りに神社へお礼参りでも行こうかな…と真剣に考えるほど。


ありがとね、神様。


そして金田…





「えー…で、あるからして…」





授業中、金田はいたって真面目にノートをとっていた。


意外…もっと喋りかけてきたりなんなりするのかと思ったのに。


じーっと黒板とノートを往復する横顔を見つめる。


ただ隣に金田がいるだけで現実から離れているような気分になる。


まつ毛長いな…


横顔まで綺麗なんだもんな…


そんな風に考えながら、ぼーっと見ていると金田がパッとこっちを見て





『…見つめすぎ』





ぱくぱくと口を動かした。


その後、あたしの机の上に何かが投げられる。


ルーズリーフを小さく切って、更に小さく折られている。


先生に気付かれないよう、極力音を出さないようにこっそり開ける。


『授業に集中しなよ。
そんなに俺のことが気になって仕方ないの?(笑)』





…そうですよ。

気になって授業どころじゃないもの。


あたしはその紙の空いている部分に


『金田が隣にいるんだもん。気になるよ』


そう書いて、彼の机めがけて投げる。


金田もそれを予想していたようで、すぐに気付いてあたしの方を見るから、べーっと舌を出した。


きっと自分が思ってる以上にあたしの心をかき回してるんだからね!


そんな思いも込めた渾身のあっかんべー。


伝わるだろうか、いや伝わらないかな。



その紙を見た金田は、一瞬手で口元を隠したかと思うとすぐに何もなかったかのように黒板とノートに視線を向けた。



あたしも授業に集中するよう努めた。

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