【完】溺れるほどに愛してあげる


「いらっしゃいませ〜」





お客さんへの対応にも慣れ、少しした頃。


まだ金田は教室へはやってきていない。


厨房をちらちらと確認しても金色の髪は見つけることができなかった。





「…うそ」





あたしは金色の髪を見つけたいのに、目の前には紫色の髪。


それは紛れもなくナス男──あたしが投げ飛ばしてしまった藤堂だった。





「どうも〜」





あたしを見てニヤリと笑うこの男。


何かを企んでるような、楽しみが待ってるんだとでも言うような感情が瞳から見てとれる。





「な、何の用ですか…?」





彼のまとうオーラが心底得体の知れないものに感じて、あたしは警戒心を解くことができない。





「やだなぁ。お客さんなんだから食べに来たに決まってるでしょ〜?」





そうだった。今のあたし達の関係はウェイトレスと客。


今は投げ飛ばしたりなんて絶対できないし、この人の機嫌を損ねたりしてもみんなに迷惑がかかる。





「可愛いねぇ、この服」

「ど、どうも…」





そのセリフは貴方じゃなくて金田に言ってもらいたいのに…!





「んーやっぱキャンセルで」

「…は?」





席についた途端、藤堂は踵を返し出口へ向かっていく。


…あたしの手を掴んだまま。





「離してください…!」





必死に手を上下に振るけどビクともしなくて解けない。





「そんなに嫌なら離してあげるけどさぁ〜…
その時は他の子に来てもらうけど、いいの?」





俺はどっちでも気にしないけどね〜、なんて軽口を叩く。


他の子に、なんて絶対に許さない。


きっとこれは報復だ。あたしが投げてしまったから。こんな女に負けて相当メンツが潰れたか、メンタルがやられたかしたんだろう。



結局は自業自得…自分のせいだ。


それで自分は逃げて、他の子を売るような真似は絶対しない。



それに…気付いてしまった。


金田はこういうやつからクラスを守るために厨房に入った。


それなのに今この状況はあたしがもたらしたこと。あたしが接客なんてしようとしたから…


だから責任をもって、こいつはあたしが対処するしかない。


早く教室から出して、みんなから遠ざけないと。





「ごめん、とっこ…
ちょっと抜けても大丈夫かな?」





そう聞くと不審そうに首を傾げるとっこ。


あたしの状況を理解したのか右手でOKマークをつくる。


ごめん、みんな…



ちゃんと守るから。この責任はあたしがしっかりとるから…

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