ひょっとして…から始まる恋は
初恋の彼と再会
間もなく桜も満開を迎える時期、私は新しい職場の建物の中にいた。


「助かるよ。柚季(ゆずき)ちゃんが来てくれることになって」


大学病院の医局で整形外科の主任教授を務める叔父は、目を細めながらそう言った。


「教授の秘書とかって初めてなんだけど、上手くやれるかまだ不安で」


前職は食品関係の会社の営業事務だった。
時間外が多くて、何かと臨機応変ばかりを迫られる部署に配属されていた。


「柚季ちゃんなら大丈夫だよ。子供の頃から優秀だったじゃないか」


かなり昔のことを持ち出しながら廊下を歩く叔父。
保科和晃(ほしな かずあき)は、この大学病院では名の知れた整形外科医らしい。


「今日は初日だから、先ずは医局の先生達の顔を覚えてくれればいいよ」


のんびり始めなさい…と言ってくれる。
そんな優しい叔父の姪でもある私は、保科柚季(ほしな ゆずき)という二十六歳の女子だ。


大学は一応名の知れた国立大を卒業した。
けれど、持っている資格は秘書と英検くらいで、これまではそのどちらもほぼ活用することなく生きてきた。

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