ひょっとして…から始まる恋は
声色を低めてキッパリと言い切り、顔も真面目そのものでいるものだから、松下さんはバツが悪いと感じたようだ。


「…ごめんなさい」


丁寧に謝ると手を解いた。
それを見ると私は何故かホッとして、彼等を教授室にどうぞ…と手招いた。



室内に通すと叔父は久保田君のことを覚えていたらしく、ああ君か…と立ち上がり、握手をしてソファへと向かう。

腰を下ろすと今日はなんだね?と早速本題に入ろうとして、久保田君は提げていたバッグの中から開発中の商品のサンプルやチラシを見せ、熱心に叔父に売り込み始めた。


前職に就いていた頃、外回りに付いて行ったことがなかったせいか、思わず久保田君のセールストークに聞き入ってしまう。

本当は早く部屋を出てコーヒーくらい持って来ないといけないのに、それも忘れてじっとしていた。



「柚季ちゃん…」


三波さんがドアを薄く開け、隙間からコーヒー…と言いながらトレイを差し出してくる。


「あ、すみません…」


ついうっかりしていました、と言い訳をしながら受け取り、話し込んでいる三人の元へと運んだ。

< 132 / 190 >

この作品をシェア

pagetop