ひょっとして…から始まる恋は
私がテーブルの手前で会釈をすると久保田君はサッとテーブルに広げていた物を避けてくれる。
それが驚くほど自然に振る舞うものだから、もしかしていつもしてるの?と窺ってしまう。


「恐れ入ります」


言葉をかけコーヒーを置く。
私が淹れた訳ではないが、いい香りだ…と褒められた。


「そう言えば披露宴からこっち、柚季ちゃんは彼と会ったのかね」


叔父はサーバーを手にするとカップから上る香りを嗅ぎながら訊ねてくる。
私は一瞬固まって声にならず、小さく唇を開いたままで無言になってしまった。



「会いましたよ。先週」


気後れもせずにそう言ったのは久保田君だ。
こっちは驚いて彼を見て、彼は私に笑いかけるとこう続けた。


「俺、高校の頃からずっと保科さんのファンでしたから。再会できて嬉しくて思わず食事に誘いました」


だけどそれだけです、と叔父を安心させる様に言っている。

藤田君はそれを聞いて肩を震わせて笑うのを我慢し、私はひたすらオタオタとしそうになるのを堪えていた。



「そうか。柚季ちゃんのな」


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