ひょっとして…から始まる恋は
彼の腕を松下さんが捕まえたのを見た時は軽い嫌悪を感じたのに、自分が彼にホールドされたら心臓が異様に速くなるなんて変。 

これじゃ彼女は駄目でも自分がいいと思っているみたいで、どちらが良くて悪いとかあり得ないのに、こんな風に思うなんてどうかしている。


どうも変だと反省をしながらコーヒーを淹れ替えて持って行った。

教授室では三人が顔を突き合わせて話し込んでいて、テーブルに近寄っても話を終えたりしない。

私は新しいコーヒーを遠慮がちにテーブルの端に置き、次はつんのめらないように…と慎重に足元を見ながら立ち上がった。



「すみません。ありがとう」


久保田君は他人行儀な言葉をかけ、ビクンと背中の筋が伸びる。見下ろすと彼がフッと笑い、それを見ると再び心臓が動き出した。


「いえ」


早く逃げ出そうと踵を返した。
これ以上此処にいたら自分がおかしくなりそうで仕様がなくなった。



秘書室に戻って小一時間すると、久保田君と藤田君が出てきた。
私は彼等を視界に収め、セールスは上手くいったの?と問いたくなったが……。


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