ひょっとして…から始まる恋は
どういう意味だと聞いてくる父に、別に仕事上のこと、と言い返す。

昼間に久保田君が私のファンだなんて言い方をしたものだから、妙な関心を持たせてしまったようだ。


「やっと柚季にも春が来たってことなのかな」


父はビールを飲みながら呟き、私はお陰で食事する気分ではなくなった。


無言で食事を片付けて食器を流しへと運ぶ。
それを洗わずに手だけを洗い、ご馳走様…と振り返りざまに言って逃げた。



「はぁー、参った…」


部屋に戻ると呟いてベッドに寝転ぶ。
飼い猫のゴロンが髪の毛をいじって遊びだしても知らん顔でいて、暫く好きなようにさせておいた。


はぁー…と再び深い溜息を吐き出す。
そこに短い着信音が聞こえ、同時にスマホがブルブルと震えた。


何気なく視線を壁掛け時計に向けると午後七時半。
相手は誰だろうと考えなくても、きっとあの人だと予感が走る。



(どうしよう。読まないと変に思うかな)


一応のつもりでスマホを握る。けれどラインを開く気にならず、そのまま額へと押し当てた。


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