ひょっとして…から始まる恋は
そろそろ離して…と願おうとしたら、振り向いた彼が何?と聞く。
その声にビクッと怯んでしまい、言おうと思っていた言葉すらも声にならずに飲み込んだ。


呼び掛けておいて無言になる私を見て、彼は不思議そうに首を傾げる。
私は彼に向けていた視線を手首へと下ろし、この手を何とかして…と無言で訴えた。



「あ…ごめん!」


パッと手を開く彼にホッとしつつも、急に涼しくなった右手首が寂しくも感じる。
こういうのを何と言うのだろうか…と思い、顔を伏せた状態で歩きだした。


会話もなく数メートルを歩いた頃、頭上でゴロゴロと雷鳴が聞こえだす。
何気に空を見上げるとさっきよりも雲が立ち込めていて、ヤバイなぁ…と頭の中で呟いた。



「降り出しそうだね」


私が空を見ていたからだろうか、久保田君もそう言ってくる。


「うん…そうね…」


弾まない声を返すと、彼の視線が私を捉える。
ソフトブラックの瞳に見つめられているのを意識すると、頬の温度が上がってきそうな気がする。


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