ひょっとして…から始まる恋は
目を伏せたままで私が無言になったものだから、久保田君は扱いに困っただろうな…とも思ったのに__


「……った」


小さく呟く声が聞こえ、何て言ったの?と視線を上げる。
前を向き直っている久保田君の両手がぎゅっと握りしめられているのが見えて、何事?と首を捻った。



「……やった」


繰り返しそう言ってるのだと分かったのは、彼の声が次第に大きくなってきたからだ。
私はその言葉を繰り返して唱える彼をポカンと見つめ、どう声をかけるべきだろうかと考えていた。



「保科さん!…いや、柚季さん!」


いきなり名字を呼んだかと思うと、名前を言い直す彼に驚き、ビクン!と両肩が上がる。
久保田君は私に向き直ると照れくさそうな表情を浮かべ、ごめん!と大きな声で謝ってきた。


「ちょっと実感させて」


両腕を広げると輪を作るように閉じてくる。

その腕の中にすっぽりと包まれた私は、肩も胸の音も、同時にドン!と跳ね上がった。


「くっ…久保田君!」


流石に恥ずかしいからやめて欲しいと訴えたくなる。
けれど彼の腕の力は、段々と強くなっていって__。


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