ひょっとして…から始まる恋は
そう思うと照れくささと同時に歯痒さが湧いて、直ぐに返事する気にもなれなかった。

第一、これまで嫌悪しか湧いてこなかった年上の男性。

どんなに受け止めると言われても、そこは譲れない気がした__。





「食事に行かないか?」


その週の金曜日、教授室から出てきた彼が私を誘った。
三波さんと保科さんは、ちらっと私達に視線を送り、興味深そうな顔つきでこっちを見ている。



「別に構いませんけど」


キッパリ断るつもりで返事をしたら、彼はホッとした表情に変わる。
三波さん達も安心したらしく、それじゃあお先に失礼します…と部屋を出て行った。

他の先生達も一週間が長かった…と言いながら教授室を出てきて、私は彼と二人だけにされてしまった。




「何処に行こうか」


帰り支度を始める私を待ちながら聞いてくる彼。
五歳年上の彼の声を聞き流して、別に何処でも…と答えた。


本当は彼と食事する気になんてなれなかった。
この場でさっさと付き合う気にはなれません、と答え、自分の部屋に戻りたかった。

だけど、相手はドクターだし、下手にプライドを傷付けてもいけないと遠慮したんだ。


< 175 / 190 >

この作品をシェア

pagetop