ひょっとして…から始まる恋は
「高校時代、藤田君は自転車通いだったよね」
白い自転車で通ってくる彼をいつも遠目に見ていた。
「保科さんは徒歩だったっけ?」
「うん、私は自宅が近かったから」
高校から自宅までは歩いて十分程度の距離。
藤田君の自宅は一駅ほど先にあり、そこから毎朝自転車を漕いで通っていた。
私は彼に会える時間帯を選んで登校していた。
朝一番に見かけるとラッキーな気分になれて、その日一日が楽しく思えた。
夏は額に汗をかき、キラキラと眩しい彼を見ていた。
冬は白い息を弾ませながら通り過ぎていく姿を、寒そうだな…と見送っていた。
高校時代の懐かしい話をしながら校舎の見える所まで来ると、どちらともなく足が止まり……
「懐かしいな」
三階建ての校舎を見上げる彼の横顔を眺め、本当ね…と同意する。
クリーム色に塗装された校舎内で過ごした三年間、私達は同じ時間を過ごした。
あの甘酸っぱい青春の日々は、今でも私の大事な財産になっている。それを思い出すと、きゅん…と胸が鳴ってくる。
「……高校の頃、保科さんは図書委員だったよね」