ひょっとして…から始まる恋は
でも、それ以上に言う言葉が見つからなくて。
やんわりと断っても何も伝わらないと思ったから__。



「君は…」


木下先生は唇を開いてぎゅっと掌を握る。
それから指を開いて、スッ…と右手を振り上げた。

その瞬間、殴られるのを覚悟して目を閉じる。
衝撃を覚悟して、ぎゅっと固く瞑った。

そのまま振り上がった手が降りてくるのを待っていたが、一向に触れてこず、おずおずと目を見開いた……。


「そんなにビクつくなら殴ってもいいとか言うなよ」


呆れた口調で言い放つと、彼は手を下ろして脇をすり抜ける。


「分かってたよ。君が年上だけじゃなく、男全般に嫌悪を感じてること」


立ち止まるとそう囁き、こっちは目を点したまま彼を見遣る。
歩を止めた人は振り向き、ふっと微笑んでから、違う?と問いかけてきた。


「年下がいいとか言いながら、実際に手を出されそうになると逃げてるだろ」


ぎくっと顔色が変わりそうなる私を見て、だてに見続けてきた訳じゃない…と続ける。


「ずっと不思議だったんだ。アイドルの追っかけみたいに燥いでても決して深入りはしないから」


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