ひょっとして…から始まる恋は
門扉に向かって歩きだす藤田君がそう言い、うん…と頷きながら返事した。


「藤田君は図書室によく本を借りに来てたでしょ」


歴史が好きだったよね、と言うと、よく覚えてるね…と感心された。


「そりゃ…」


好きな人の借りる本だもん。何を読んでるのかな…と関心を持って見ていた。


「保科さんは真面目な委員だったからな」


図書室で騒ぐ下級生をよく怒っていたね、と言われ、そんなことまで覚えてるの!?と目を見張る。


「うん、まあね」


楽しそうに微笑む彼を見ていると、懐かしい気持ちと同時に切なくもなった。

あの頃は今よりももっと近い距離に彼がいたのに、どうして気持ちを話そうとはしなかったのだろう。



「私ね……」


今更だけど言ってしまおうかとも思い、そんな風に言葉を出しかけたが__。


ピロン♪となる短い着信音に気づいた彼が、スマホをポケットから取り出し、画面を眺めて小さく微笑むのを見ると何も言えなくなってしまう。



「…ごめん。急ぐからこれで」


スマホをポケットに入れながら謝る彼に、うん…と答えて唇の端を持ち上げた。

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