ひょっとして…から始まる恋は
笑顔をなんとか作ってみせたが胸中は複雑で、またね…と言って走り出す彼になかなか声が出せずにいる。



「……おやすみ。お疲れ様」


ようやく出せた声に振り返り、お疲れ〜！と手を振ってくる彼。
だけど、目線は直ぐに前を向いてしまい、足音は次第に遠のいていく……。


そのリズム良い足音を聞きながら無性に寂しくなった。

彼がこれから向かう先のことを思うのが嫌で、頭を切り替えるようにくるりと背中を向けて歩きだした。


目線の先には、桜の花弁が舞っている。

振り仰げば塀越しに満開の桜が見え、それを見ていると、ぎゅっ…と胸が押し潰される様な痛みが走った。


私は、彼の知り合いがこの界隈にいるという話は、少し嘘なんじゃないのかと思っていた。

何となく私一人で帰すのが心配で、送りがてら同じ駅で降りてくれたんじゃないのかと考えていた。



……でも、今の彼を見るとそうではないみたい。

本当にこの近くに知り合いが住んでいて、さっきの着信音もその人からメッセージが入ってきたのだろうと思われる。


< 20 / 190 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop