ひょっとして…から始まる恋は
驚いて名前を呼ぶと、彼がスクッと立ち上がった。
こんな至近距離で彼と対面するのは始めてで、思わずぎゅっと胸が詰まる。


「どうしたの?午後はオペじゃなかった?」


時刻は三時を過ぎた頃。
時間こそ聞いていなかったけれど、準備とかもあるのではないのか。


「オペならもう済んだよ。大腿部の頚部を固定するだけの手術だから簡単に終わるんだ」


複雑な骨折でもなかったしねと話す。
そうなの…と返事をしながら見ていると、指先に持ったメモ紙に気づかれた。


「何?資料探し?」


「うん、教授に頼まれて。だけど、さっきから探すけど見つからなくて」


医療書にはドイツ語や英語もあって探し難い。
入り口にある検索機で場所を調べてきたがこの調子。


「どれ、見せてみて」


メモに手を伸ばす彼の指先が触れた。
ドキッと胸が弾んでしまい、バカ…と思わず自分を罵る。


「あ…もしかして、この本かな」


自分が読んでいた本を見せ、メモ紙に書いてある文字を追う。


「やっぱりそうだ、ごめん。俺が見てた」


はい、と向けてくる彼に、いいの?と驚いた。


< 29 / 190 >

この作品をシェア

pagetop