ひょっとして…から始まる恋は
優しく髪の毛の上を行き来するハンカチの動きに合わせ、鼓動がドンドンと大きくなる。

拭いている彼には親切心以外の気持ちなどないのに、まるで自分が特別な待遇を受けているようにも感じてしまう。



「……はい。風邪ひかないように」


放射状に全体を拭き上げた彼がハンカチを戻してきて、私は両手でそれを受け取った。

ありがとうを言わなくてはいけないのに直ぐには声も出せず、代わりにぎゅっとハンカチを握りしめた。


「……ふ、藤田君は、どうして今日は此処で降りたの?」


会話をしないと駄目だと考え、思いつくままにそう聞いた。


「また知り合いの家に寄り道?」


この前の花見会の時と同じかと思って訊ねたら。


「うん、まあ、そうなんだけど…」


若干ハッキリしない答えが戻った。
何か他の目的でもあるのかな…と思えて、ふぅん…と聞き流すだけにしておいた。



「さっきさ」


話を変えるように声のトーンを上げた彼が、クク…と急に笑いだす。何が起こったのか分からずに、どうしたの?と彼のことを見返した。


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