ひょっとして…から始まる恋は
もう少し一緒にいて欲しいな…と思いながら訊いてみた。
彼はうん…と呟きながら唇を閉じ、雨の降り具合を窺っていた。


「__俺はこれから用事があるから行かないといけないんだ。保科さんとはもう少し話してみたいけど、それはまた次の機会に」


そう言うと決意をしたように小降りになった雨の中に歩み出る。
勢い付けて走り出そうとする彼が振り返り、気をつけて帰って、と気遣われた。


「大丈夫。ありがとう」


きゅん…と胸が狭まる。
藤田君はニコッと微笑むと手を挙げて、また…と言って走り出した。



「またね」


後ろ姿に声をかけながら、振り向きもしない彼のことを見続ける。

胸の奥からは甘酸っぱい気持ちが溢れ出して、この間感じた暗い気持ちを掻き消していく。



「はぁ…」


肩の力を抜きながら大きな溜息を吐き出し、見えなくなった姿をいつまでも追っていた。

頭の中では、彼の言った言葉や笑顔をずっと繰り返し続けていた。



「はぁ…」


二度目の溜息をこぼしながら、自分の気持ちを確信した。


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