ひょっとして…から始まる恋は
秘書室のドアを開くと甲高い声が聞こえた。
はしゃいでいたのは松下さんで、私はその原因となるべき人を見つけると少し顔が引きつった。


「柚季ちゃん、おかえり」


ドアを閉める私に気づき、三波さんが声をかけてくる。
それに黙って頷き、ちらっと彼に視線を走らせる。


藤田君は珍しく白衣を着たままだった。
初めて見る白衣姿にぼうっとして、ドアの前で立ち尽くしてしまう。

彼はどうも叔父や准教の先生達に用事があったらしく、松下さんに手を離して下さい…と訴えていた。



「美穂、いい加減にしなさい!」


さすがの三波さんが怒鳴り、松下さんは、はぁい…と間延びした返事をして彼のことを解放する。

藤田君はやれやれ…といった様子で教授室のドアをノックして、深く一礼をして入っていった。


私はぶうたれている松下さんに向かい、既に失恋してますよ…と忠告したくなるのを我慢した。

どうせ私も同じだと思うと言っても虚しいだけだと感じ、黙々とパソコンの操作を始めた。


教授室へ行った藤田君は、一体何をしに此処へやって来たのだろうか。

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