ひょっとして…から始まる恋は
気になるな…とチラチラ目線を教授室のドアに送りながら、それを二人の先輩達に気付かれてないだろうかと確認する。


少しでも私が彼のことを好きだなんて悟られると困る。
そっと誰にも気づかれずに藤田君を見ていたいだけなのだから。


(本当に子供の頃と同じね)


高校の時と変わらない。
年だけ重ねて、想いだけ募らせても届かない恋。

彼には過去も現在も彼女がいて、きっと大人同士の付き合いをしていると思われるのに。


大人…と考えたら堪らなくなった。
彼の白い素肌を思い出して、異様に汗が吹き出す。


きっと今、顔が赤い。
どうしよう。逃げ出したいな。


ポケットからハンカチを取り出し、お手洗いへ行ってきますと言おうかと立ち上がりかけた。

すると、タイミング悪く教授室のドアが開いて、白衣を着た彼が後ろ向きに下がってくる。



「どうもお邪魔致しました」


体幹に両腕をくっ付け、前みたいに深々と一礼。その後はドアを閉めて向き直り、ふぅ…と大きな息を吐いた。


「何?難しい症例?」


三波さんに問われた彼が視線を送り、いや…と言いかけて、ええ…と言い直す。

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