ひょっとして…から始まる恋は
「柚季ちゃんは秘書をしたことがあるの?」


橘先生の秘書をしていると言った三波さんが、早速ちゃん付けで聞いてくる。

彼女は私よりもだいぶ年上みたいで、落ち着いた雰囲気の優しそうな人だ。


「秘書は経験がないんです。前職は食品関係の営業事務だったので」


外回りに出掛ける社員のスケジュール調整や外部から掛かってくる電話への対応。入荷や発注の計算や管理なんかもしていて、何かと目紛しい部署だった。


「営業事務?聞いたことあるけど大変なんでしょ」


もう一人の女性秘書、松下さんが聞き直す。


「そうですね。なかなか時間内には終わらない仕事でした。残業時間も限られていたし、残業代も出ないからブラックみたいなところも多くて」


「その点で言ったらこの医局は安心よ。整形外科の先生達は学会や出張も少ないし」


ほぼ定時に帰れるから…という言葉を聞いて、本当ですか?と少しだけ喜んでしまう。

私が叔父の秘書をすることになったのも、今年のお正月に本家の祖父母に会いに行った際、残業が多くて大変なのと愚痴ったことがキッカケだった。


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