ひょっとして…から始まる恋は
申し訳なさそうな顔をして、藤田君は教授室へと向かう。部屋の中では叔父の保科が喜ぶ声が聞こえ、他の先生達からもおめでとう…と言われていた。



（はっ、そうか。おめでとうを言わないといけないんだ）


そう思った瞬間、ヤダ…と感じた。
めでたい事を嫌だと思うなんてあり得ないのに、どうしても素直に喜べない。


そのうち藤田君が叔父と一緒に出てきて、先ずは三波さんがお祝いを述べた。


「おめでとうございます」


松下さんも苦々しそうな顔つきではあったが、取り敢えず大人な対応を示す。


「おめでとう…藤田君…」


声には明らかに怒りが含まれているようだ。

知らない女にアイドルを奪われたような気分なのだろうが、怒ったところで何かが変わる訳でもない。


藤田君は松下さんや三波さんに、ありがとうございます…と頭を下げ、私の方に振り向くと、照れくさそうに笑った。


「おめ…」


そう言うと一気に涙がこぼれ落ちそうな気がして、ぐっと喉を詰まらせる。
最初から手が届かないと思っていたけれど、やっぱりなんだ…と思うと悔しさが込み上げてくる。



「オメデトウ。フジタクン」

< 54 / 190 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop