ひょっとして…から始まる恋は
相手が自分であって欲しいとは思ってもなかった。
でも、もっとマシな人として欲しかった。



(全部、私の我が儘なんだけど……)


そう思うと涙がこぼれ落ちていった。

彼のことを諦めるなんて出来ないけれど、諦めなきゃいけないと考えた。


彼の幸せを祈らないといけない。
決して別れないで、と願わないといけない。


(分かっているけど……でも、今だけいいですか、神様…)


一瞬だけでいいからどうか願わせて。
これから先は決して願ったりもしないから。



「……お願い。今直ぐ別れて」


声に出すと堰が切れたように涙がこぼれ落ち、膝の力までが抜けそうになる。
ヨロヨロとしながら何とか歩き、図書館の裏側まで来るとしゃがみ込んだ。

がくっ…と地面に両膝を着き、首を項垂れてしまう。
そのままの姿勢で泣き崩れて、暫く秘書室には戻れなかった__。


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