ひょっとして…から始まる恋は
泣き腫らした顔を隠せないままで秘書室に戻ると、松下さんから腕をガシッとホールドされた。


「今夜は飲もう!」


そう言って私を誘うものだから断り切れずに頷く。
失恋した者同士、同情や慰めが必要なのかと思ったが違い、松下さんは彼と相手について、思いきり恨み言を言おうと言い出した。


「逆恨みをしないようにするにはこれが一番よ」


この人は常にこういう恋愛しかしてこなかったのだろうか。
居酒屋に着くとビールを三杯一気飲みして、酔ったオヤジみたいに管を巻き始めた。


「フィアンセがいるならいるって態度を見せろよ!」


ドン!とテーブルに四杯目のビールジョッキを置き、私に向かって、ねえ?と訊ねる。


「そ、そうですよね」


勢いに呑まれた私は圧倒されて頷く。


「だろ!?」


松下さんは男性のように吐き出し、バカヤロー!と怒鳴った。


(こりゃ今夜は酔えないな…)


ショックを感じているのは私も同じなのに、どうしても同じテンションにはなれない。
酔った勢いに任せた松下さんがお店に迷惑をかけるかもしれない…と考えていたからだ。

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